開かれた空間、閉じた空間
14.開かれた空間、閉じた空間
突然、食堂の隅の何もない空間に100インチほどの大画面がパッと現れた。
その画面には5~6人の体格の良い男たちが軍用小銃を手や背中に携えて、この船に乗り込んでくるところが映し出されていた。
「あっ!!ヤバッ!海賊ですよ!!」
思わず叫びそうになったのを抑えて小声で話しかける。
「はい、そうみたいですね。」
まるで平静の笹川さん。
「ど、どうやって彼らと戦うんですか?!」
既に僕の下半身は猛ダッシュで逃げ出す準備が出来ている。
彼らがここへ来るまで、ものの2分もかからないと思ったからだ。
「へ?戦う?いいえ、戦いませんよ。」
何を言ってるんだともで言いたげな口調。
「で、でも、奴らは武装してるんですよ!?」
ひょっとしたら笹川さんは何かの武術の達人か?と彼の冷静さから考え始めた。
「『彼らのルール』で戦えば、彼らより重武装でなければ勝てません。じゃあ我々は『我々のルール』で動けばいいだけじゃないですか?」
何を言ってるのかまるで理解できない。
既に彼らは甲板から階段を下り、僕らと同じフロアーに来ているというのに!!
「ではそろそろ動きますか。」
そう言うと食堂の壁に向かって、あたかもドアノブを掴むような仕草をした。
次の瞬間、空間に切れ目が入ったと思ったら、いつの間にか、そこにはドアが!?
「何してるんですか?さ、早くこっちへ。」
手招きする笹川さんに、ハッと我に返り後に続いた。
海賊の誰かが、僕の背後でドアが閉まるのと入れ替わりに食堂に入ってきた。
「あっ!お頭ぁ~っ!誰か居まっせ!!」
ドキッとした!
僕がここへ入るのを見られたのか!?
ドカドカっと数人の男たちの足音が聞こえた。
『もうダメだぁ!!』
祈るような、絶望に押しつぶされそうな混ぜこぜの気持ちになる。
「ほら、このコーヒー、まだ暖かいですぜ!!」
見られてなかった!!
ホッと胸を撫で下ろす。
「気をつけろ!奥の厨房に誰かいるかもしれん。」
男たちは自動小銃を構え、じわじわと奥の厨房へ近づいて行く。
海賊が全員食堂内に入ったのを確認した笹川さんは、今度はこの暗い部屋の壁に向かってさっきと同様にドアノブを掴む仕草をする。
そして『新しいドア』が開くと、そこは中央通路だった。
すぐ隣には食堂の入口のドアがある。
笹川さんは事も無げにサッとそのドアを音もなく閉め、鍵を掛けた。
海賊は誰ひとり気がついていない。
「さ、これで大丈夫。また後で覗いてみましょうか。」
まるで粗大ゴミを片付けたかのようにスッキリした様子で食堂を後にする笹川さんに呆然とする僕。
「あ、待ってくださ~い!」
小声で叫ぶと小走りに後を追った。