宇宙法則『ナルヨー・ニナール理論』?
5. 宇宙法則『ナルヨー・ニナール理論』?
もうまるで状況が把握できなかった。
え?なんで 小野先生がここに?
しかもいきなりデッキチェアーから?
それも何事もなかったように「お久しブリーフ!」って!?
さっきまでの幸福感は消し飛んでいた。
また目眩が始まる。
これは夢か?
僕は本当はどこに居るんだ?
人類が樹上生活を捨て去ってからどれくらいの時間が経過したんだろう?
当たり前に二足歩行で地上生活を繰り返してきた人類の一員のはずの僕だけは、真っ直ぐこの場に立っていられないほど平衡感覚を失いつつあった。
「あは、分かった!生まれたての小鹿の真似だろ!!」
小野先生はまるで僕の状況を理解していない様子だった。
ついに僕は思わず尻餅をついてその場へヘタリ込んでしまった。
「おいおい、もうそんなに飲んだのかよ~。俺もピッチ上げて追いつかんと損やな!」
冷やかす彼の声もなんだか歪んで聴こえてくる。
「あれ?ひょっとして・・・」
傍らの『怪力お花畑女』が何かに気づいたようだった。
が、僕は泥酔したサラリーマンよろしく、グルグルと回る風景の中で両腕で怪しく宙を漕ぐ。
「分かった!!お前まだ船長から『ナルヨー・ニナール理論』の話を聞いてなかったんだろ!」
『お前が「お前」言うな!』
と心で『怪力お花畑女』に反論するが、声に出すまでの気力は無かった。
「それであの椅子にも座っちゃったんですね~!仕方がないなあ~。」
そう言うと女はカーキ色のロングコートの右ポケットから緑色の液体の入った小さな小瓶を取り出し、ガラスの栓を抜いた。
女は、目が回って座り込んでいる僕の横へ近づき中腰になると僕の鼻をつまみ、その液体を口に無理やり流し込んだ!?
「う”っがぁっ~~~~っ!!」
言葉にならない苦さが舌を覆い、一気に喉へと流れ込んだ。
我慢しきれず咳き込む僕をニヤニヤしながら見下ろす小野先生が微かに見えた。
『この人、何してんだよ!ちょっと今後の付き合い方変えようか!?』
苦しみながらも彼に対する怒りが込み上げてきた。
ひとしきり咳込んだあと、ようやく呼吸も落ち着いてきた。
不思議なことにさっきまでの目眩も不快感も無くなっている?!
「一体何を飲ませたんだよ?!」
怒りを抑えながらも女を睨み上げた。
「スナ・オニナール溶液だよ。宇宙法則の『ナルヨー・ニナール理論』を使った道具を使う時にはこれを服用してないと頭がおかしくなるんだよ?船長から聞いて無かった?」
ニコニコしながら僕を見下ろす女。
「なんだよ、それ!一度も聞いてないぞ!てか、そのオニニナールだとかヨーダニナールみたいな理論てなんだよ!」
「オニナール溶液とニナール理論だよ、ばか。」
「お前が馬鹿言うな~!!」
ついに僕は切れた!
スックと立ち上がり『怪力お花畑バカ女』の前に仁王立ちになってやった。
「おっ!?元気戻ったみたいね?じゃあ、駆けつけ3升行ってみようか~!!」
そう言うと小野先生は僕の肩を抱き、甲板の方へと無理やり連れて行くのだった。
僕は『宇宙人怪力お花畑バカ女』の方を振り返りながらも絶対に言葉遣いを訂正させてやると心に誓うのだった。
「よ~し、じゃあ飲むか~!!」
小野先生が奇声を発する。
僕も渋々甲板の方へ向き直った。
「てか、おかしい~~~~~~っ!!!!!!!!」