『酒宴をこよなく愉しむ会』再び!?
4. 『酒宴をこよなく愉しむ会』再び!?
一体どうなっているのか?
この船には僕と船長の他に料理長、航海士、他に数名の船員しか乗っていないはずだった。
が、今この甲板で繰り広げられている『酒宴をこよなく愉しむ会』には総勢40名は下らない人間がひしめき合っている。
どこから湧いて出てきたんだ?!
しかも心なしか、いつもより甲板自体が広く大きくなっている気がする。
いや、絶対大きくなっている!!
「おい!熱燗もう一本!!」
酒臭い息を吐きながら船長が催促に来た。
「はい、これどうぞ。」
拾われたときは「駆けつけ3升」だと言って無理やり一気に酒を飲まされたのでそんなことに気がつかなかったが、今日はまだほとんどシラフ。
なのに泥酔した時のように頭がぼんやりクラクラし始めた。
「もう酔ってるのか?だらしがない奴だな。そんなことで世界を目指せるか!?」
いつものごとく怪気炎を吐く船長を押しのけ、僕は船尾へ移動することにした。
頭がおかしくなりそうだった。
論理的に考えようとすればするほど、混乱してくる。
とにかく人気を避け、船尾で静かに休みたかった。
ようやく船尾につくとデッキチェアーが一つ置いてあった。
これも不思議に思っていたことだが、いつもこの椅子はここに置いてある。
しかも他の誰もこの椅子に座ったところを見たことがなかった。
特に壊れている訳でも、汚れているわけでもないようだったので深く考えずに座った。
ゆったりとした背もたれに深く身を預けると、急に眠気が襲ってきた。
日頃の疲れのせいか、少量のアルコールが効いたのか、いずれにしろこれ以上目を開けてはいられなかった。
夕暮れどきの爽やかな秋風を受けて、僕はこれ以上ない幸福感に久しぶりに包まれていた。
徐々に脈はゆっくり打つようになり、呼吸は吐息から寝息に静かにすり替わって行くのを感じてた。
やがて意識は肉体を離脱し重力を感じなくなった。
その瞬間、近くで誰かが怒鳴った!?
女性の声?
海底で吹き上がった気泡が水面に浮上するかのように意識も覚醒した。
「そこに座っちゃダメです!!」
その声の主は僕の右手首を掴むと物凄い力で引っ張った。
まだぼんやりしている僕の体は、引っ張られるがまま、椅子から引き剥がされ、その勢いで前のめりになりながら転落防止用のハンドレールの所まで飛ばされた。
僕の上半身は意識とは裏腹にハンドレールを超え、ヘソのあたりを軸にテコのように下半身も連れて海へ落下し始めた。
咄嗟に手すりを掴もうとしたが虚しく空を握った!
『落ちる!!』
そう思った瞬間、今度は足首を何かが掴んだ。
落下は止まった?!
「何やってるんですか?!危ないなあ、お前。」
デッキへ引き戻された僕はまた頭が混乱し始めた。
その声の主の怪力女は、例の『お花畑女』だったのだ。
ありがとうと礼を言うべきなのか?
そもそも無茶苦茶な力で引っ張った張本人じゃないか!
しかもどう見たって僕より10歳は若いのに「お前」とは何だ?!
静かに腹の底から怒りが込み上げてきた!
だが、僕は大人だ。
「君の方こそ、危ないじゃないか!」
冷静さを保ちつつも抗議した。
「危ないのはそっちです。ほら、あれ!!」
彼女はそう言うと先ほどのデッキチェアーを指さした。
僕は思わず目を擦った。
デッキチェアーが光っていたからだ。
さっきまで僕が座っていた何の変哲もない椅子が全体から光を放っているのだ。
目の錯覚か寝ぼけているのか?
呆然と見つめていると、その光の中に人の形のようなモノが浮かび上がってきた?!
光は急速に収束し、輝きを失っていった。
そしてデッキチェアーには一人の男が座っていた・・・
「よぉ!!お久しブリーフ!!」
「お、お、小野先生??」
声が裏返ってしまった。
そこには、恩師の小野氏が座っていたのだ。