兄貴ササピィ
「笹川さん!?そこにはまだ海賊が・・」
僕の言葉を彼は左手を上げて『大丈夫!』とジェスチャーで制する。
僕は慌てて扉から少し離れた。
笹川さんは全く緊張感もなく食堂へ入っていった!?
次の瞬間、けたたましい銃撃音が聞こえて・・・来なかった?!
恐る恐る食堂の中を覗き込んだ。
すると5人ほどの海賊と思われる大柄な男たちは白目を剥いて床に倒れていた。
笹川さんは彼らが落とした自動小銃を拾い集めている。
「ほら、ボヤッとしてないで手伝ってくださいよ。」
僕に指示する。
「だ、大丈夫なんですか?どうやったんですか、ソイツら?!」
声が微妙に震えているのが自分でも分かる。
「何もしませんよ。宇宙理論酔いの頭痛で気を失っただけですよ。それより、他にも凶器が無いか彼らの体もチェックして!」
両腕に抱えきれないほどの銃器を持った笹川さんは、僕にそう命令したまま部屋から出ていった。
「ど、どこへ?!」
笹川さんを振り返る。
「すぐに戻りますから早くチェック!起きちゃいますよ彼ら。」
全て言い終わらないうちに姿が見えなくなった。
「ええ~っ!」
今、コイツラが目覚めたら僕に勝ち目は一分もない。
慌てて彼らの腰や靴をチェックし始める。
大急ぎで厨房からゴミ袋を1枚取って来て、彼らの体から武器と思われるものは全て取り外し袋へ放り込んでいった。
袋はピストルやナイフ、果ては手榴弾みたいなものであっという間に一杯になった。
そこへ誰かが飛び込んできて一瞬腰を抜かしそうになった。
「私ですよ!!」
笹川さんも驚いた僕を見て驚いたようだった。
「これで全部ですか?」
武器で一杯になったゴミ袋をヒョイと担ぐと僕に何かを手渡した。
不意を突かれてソレを落としそうになる。
それらは細い革製の首輪のような物だった。
ただ、一部に金属製の小さな箱のような部品が付いている。
「それを彼らの首に装着してください。」
やはり首輪のようだ。
彼らがいつ目覚めるか分からない恐怖から震える手で急いで装着した。
「よし。準備完了!」
そう言うと上着の右ポケットから自動車のキーのようなものを取り出した。
「少し離れてください。彼らが目を覚ましますから。」
キーのようなものを海賊たちの方へ向けて、ボタンのようになっている部分をプチっと押した。
次の瞬間、海賊たちは電源が入ったロボットのようにピキーンと目を見開いた。
「あわわわ」
怯える僕をよそに笹川さんは彼らに近づいてゆく。
「さて、皆さん、『お迎え』が来るまで少し時間がありますから船長が『お話したい』そうです。私に付いて来てください。」
男たちは虚ろな目つきでノッソリと立ち上がり、笹川さんの後に続いて食堂を出ていく。
笹川さんが振り返り叫ぶ。
「甲板で待っててください。面白いものが見れますよ。」
何のことか分からなかったが、とにかくこの状況を笹川さんは初めからちゃんとコントロール出来ていたんだということは理解できた。
彼の背中を見送りながら無意識に呟いていた。
「かっこいい・・・アニキ!」